星食のお話をする前に、天文現象で言う「食」についてお話しておきましょう。文字通り、天体が「食べられる」現象のことをいいます。もちろん、誰かが星をパクパク食べてしまうわけではないので、何らかの自然現象が起きるわけです。
有名なところでは、「日食」や「月食」があります。日食は、地球からの見かけ上太陽の方向に月が入り込んでくることによって、太陽が月に隠される現象ですね。月食は、太陽の光によって照らされている月が、地球の陰の中に入ることによって見えなくなる現象です。これらの「食」は、宇宙空間での位置関係が相互に直線上に並ぶことによって、遠方にある天体が隠されることを差しています。今年は7月29日に部分月食が日本でも観られ、8月11日には今世紀最後の皆既日食がヨーロッパから中近東地域で観ることができます。
一方、「星食」と呼ばれる現象があります。別名「掩蔽」(えんぺい)とも呼ばれるこの現象は、日食と同じ仕組みで月がその向こう側にある星を隠す現象を言います。もっと広い意味では、月以外の太陽系の天体にも適応されます。ですから、惑星や小惑星などにより、それより遠くにある星を隠してしまう「掩蔽」もあるわけですね。
月は地球のまわりを約一カ月かけて公転しています。それは地球上から見ると、天球上を少しずつ移動しているように見えることになります。ですから、その日・その時間で月の見える場所は少しずつ違っているわけです。
天球上を移動している月と見かけ上同じ位置に他の星が重なる場合に、月による「星食」がおきます。月がその星の前を通過することにより、星が隠される現象です。月のどの場所に隠されるかにもよりますが、長くて1時間くらい隠れている時間があります。
今回の星食は、満月を過ぎた月がしし座の1等星レグルスを、宵の西の空で隠します。1等星の星食は年によって数回見られることがあり、日本からは今年はおうし座のアルデバランとレグルスが3回ずつ隠される様子をみることができ、その中でも比較的よい条件で見ることができます。
東京では、21:34分頃に月の照らされていない側から隠される様子をみることができます。再び月の後ろから出てくるのは22:05分ごろで、このときは月の明るい側からになるので、出てくる瞬間を見ることは難しいかもしれません。
しかし、下関と高知を結ぶ線より西側の地方では、月はレグルスをかすめていくだけで隠される現象を見ることはできません。これは、月の見掛け上の位置がその地方によって違うために起こるわけです。
また、その隠されるか隠されないかの境界線上の場所では、「接食」という現象も見ることができます。接食とはこの星食のスペシャル版のような現象で、月の縁が星をかすめていくものです。月は表面がクレーターなどにより凹凸があるため、ギリギリのところをかすめた場合、その星は凹凸に隠されたり出てきたりしてちかちかと明滅するわけです。
右の図の紫の線上の場所では接食として観測することができ、それより東側の紫のかかった地域では星食として観測できます。西側の地域では、月にレグルスが隠される様子は見ることができませんが、月のすぐ近くを通過していく様子を見ることができます。
星食の観測は、月と星の明るさの差が大きいため肉眼では見ることができませんが、10倍程度の双眼鏡や6cm以上の天体望遠鏡があれば、月の影の部分にレグルスが「ふっ」と消える瞬間を見ることができます。星食をはじめとした「食」は、とてもライヴ感覚のある天文現象なので、一度見てみるととても感動するものです。皆さんも是非見てみて欲しいと思います。
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