スカイポッドVMC110L テストリポート

2006.6.4 (有)スターゲイズ 船本

 ビクセンから、新しい天体自動導入望遠鏡「スカイポッドシリーズ」が発売されました。ビクセンの天体自動導入望遠鏡は、1984年にそれまでのポラリス赤道儀をモデルチェンジしたSP(スーパーポラリス)赤道儀と同時に発売を開始した「マイコンスカイセンサー」からはじまります。右の画像はその当時雑誌に掲載された広告です。この広告にもあるとおり、民生用天体望遠鏡としては世界初ものでした。現在天体自動導入でトップのシェアであるMeadeがCATを発表する5年も前のことでしたから、いかに先進的な製品であったかがわかります。

 しかし、このマイコンスカイセンサーは、望遠鏡の駆動に使っていたステッピングモーターの速度の制約が大きく、天体の導入に要する時間が非常に長かったことや、電力消費が大きいことなど、まだ実用面ではかなり大きな問題を抱えていました。その後、スカイセンサーシリーズは少しずつバージョンアップされスカイセンサー3D・3Sまで改良されましたが、これらの問題の根本的解決には至らず、1997年にはこれらの問題を解決するために、モーターをDCサーボに変更したスカイセンサー2000が発売されます。このとき、すでにMeadeは高速で高精度な天体自動導入望遠鏡初代LX200シリーズを送り出していました。


Meade ETX-90ECとの比較

 その後、Meadeは望遠鏡を選ばない天体自動導入コンピュータ「オートスター」を装備したETX-ECシリーズの発売など次々と新製品を発表し、天体自動導入の分野では一歩遅れた感のあったビクセンでしたが、SP赤道儀からの流れをくむGP赤道儀のモデルチェンジ版となる、2004年に発売したSX赤道儀には、「STAR BOOK」というポータブルゲームプレーヤーのような外観のカラー液晶画面を搭載した天体自動導入コンピュータが標準装備されました。

 当社でもこの機種を実際に使用して機能評価を行ったのですが、実用的な面で非常に評価が低く、残念ながら当社オンラインショッピングの「おすすめラインナップ」には掲載することができませんでした。

 今回、新たにラインナップされたスカイポッドシリーズは、簡単な構造の経緯台にモータードライブを装備し、「STAR BOOK」をコストダウンした「STAR BOOK-S」を標準装備して、お求めやすい価格帯の入門向け望遠鏡に、天体自動導入機能を組み合わせた魅力的なセットになっています。発売開始と同時に当社でもスカイポッドVMC110Lを購入し、実際に使用して機能評価を行うことにしました。

■セットの概要

 発売開始翌日の5月27日に、早速組み立ててテスト稼働してみました。この製品には上のETX-90ECとの比較写真のようなデスクトップ脚が標準付属していますが、デスクトップ脚を取り付けた状態で使用するには、コンクリートなどで作りつけられたベンチなど、よほどしっかりした土台の上に設置しないと使用できないため、今回は他のモデルに標準で装備されているスカイポッド三脚を併用し、当社のベランダに設置して右の写真のような状態でてテストを行いました。
 鏡筒とデスクトップ脚を取り外した状態での重さは約2.8kg。ギア部分等架台の強度や精度が必要な部分にはアルミ鋳物などの金属を使っているため、多少重量は重くなっている。本体とSTAR BOOKコントローラは一体化できる設計になっていて、コントローラーを取り外し下部の蓋を開けると、コントローラーの接続ケーブルと単三電池8本を収納するスペースになっていて、外観上はとてもスマートです。

■電源とコントローラー

 架台の電池ボックスに電池を入れて左にある電源スイッチを入れる・・・が、STAR BOOK-Sのコントローラーには何も表示されない。良く見てみるとコントローラーにも電池を入れなければならないようだ。こちらは単三電池4本。合計12本の電池が必要となる。実質的に電池の重量約300g分が増加となる。
 STAR BOOK-Sの電源ボタンを押すと、液晶画面に初期設定の画面が現われる。現在の時刻と観測地を設定するところは、Meadeのオートスターと同じ。大きく異なるのは、オートスターは電源投入時の初期位置が南の水平線なのに対し、STAR BOOK-Sは西の水平線になる。これはスカイセンサー時代から同じである。

■アライメント操作と天体の導入

 画面には現在の西の空の様子がシミュレーション画像として表示されている。とりあえず西の空でもっとも明るく光っている木星を導入する。コントローラーには上下2つのクロスキーが付いており、それぞれに別々の役割が割り当てられている。下のキーは画面に表示される星図の拡大率を換えることができ、同時にモーターの駆動速度も連動して変わる。上のクロスキーは星図上の天体を選択したり、実際に望遠鏡の視野を移動したりするのに使用する。
 星図上の拡大率を変更して木星を選択するのに、キー操作が煩雑でなかなか目標が定まらない・・・。なんとか木星付近を選択して「導入」をする。アライメントを行っていないのでだいたいの位置までしか導入できないが、上のクロスキーで視野を移動して木星を視野に導入する。拡大率を変えなければ速度が変更できないので、いちいち手元のキーを確認しなければならず、なかなかアライメント操作が完了しない。モーターの動作も若干ルーズで、ボタンを押してからの加速・離してからの減速までにそれぞれ時間がかかってしまうため、視野の中心に入れるのにも少し苦労する。
 少し時間がかかったものの木星を中心に入れてアライメントを完了し、次に子午線をはさんで反対側にあるアルタイルを導入する。視野が移動までは20秒程度で、十分待つことができる時間である。アルタイルのアライメントも少してこずったが完了し、いよいよ導入精度のテスト。子午線近くにあるさそり座のアンタレスを導入。アライメントした2つの天体のほぼ中間であることもあり、かなり良い精度で、標準で付いているPL20mmアイピースの視野の中心付近に導入できた。


実際のテスト時の様子
スカイポッドVMC110Lと
スカイポッド三脚の組み合わせ


架台の電池ボックス
単三乾電池8本


STAR BOOK-Sの電池
単三乾電池4本

 続いて、はくちょう座のアルビレオを導入。アライメントした2つの星とは反対側の空でしたが、視野の中には十分入る導入精度。実用的には申し分ないだろう。さらにヘルクレス座のM13を導入。この時間M13はほぼ天頂付近にある。Meadeの自動導入望遠鏡でも天頂付近の天体は導入精度が落ちたり、導入後の視野の移動に苦労することがありますが、スカイポッドでもやはりこの導入しにくい。それでも視野のはじには導入することができました。しかし、そこから視野の中心に動かそうとすると、ボタン操作とはまったく関係ない方向に視野が動いてしまう。おそらく、天頂付近の天体の位置計算精度の問題で、モーターが勝手に動いてしまうのだろう。実質的に、天頂付近の天体はこのシステムでは導入ができないかもしれません。

 その他の天体も一通り自動導入をしてみましたが、導入精度は実用十分なものを持っており、機能としては性能を満たしていると思いました。

■電池の消費量

 その後、電池の消耗状態をチェックするため、そのまま4時間ほど放置する。再び戻って見てみると、STAR BOOK-Sの電池インジケーターが著しく減っている。電池は新品のアルカリ電池を入れたのですが、この消耗具合はちょっと気になります。バックライトの自動消灯を設定していなかったため、バックライトが点灯したままであったことも、電池消耗の大きな要因になっているように思います。

■観測の終了

 最後に電源を切る。まず本体の電源をきり、続いてSTAR BOOK-Sの電源を切ろうと思いスイッチを押したが切れない・・・。説明書を読んでみると、メインメニューから「電源オフ」を選ばないと電源が切れないらしい。これですべての電源を切ることができた・・・。が、もうひとつ問題があった。
 この状態では望遠鏡は電源を切った位置で止まってしまっており、次に使用するときに望遠鏡を取り付けたときに、まったく関係のない方向に向いてしまうことになる。スカイポッド経緯台は水平方向には自由に回転できるが、仰角方向はクランプがないため、モーターで回して元の位置に戻す必要がある。
 このため、電源を切る前に「ホームポジションに戻る」の操作をしなければならない。つまり、電源を切るのに2つの操作をしてからでないと、電源を切れないということになります。

■VMC-110L鏡筒について

 これまでSTAR BOOK-Sのことばかりを書いてきましたが、このモデルに付属しているVMC110L鏡筒の見え味について。ビクセンが独自の設計により開発したVMC光学系は、旧来からのカセグレン光学系をベースにして、製造が簡単でコストが安い球面鏡を主鏡・副鏡の両方に使用し、像面の湾曲等の諸収差を副鏡の直前においたメニスカスレンズにより補正する方法で、Meade ETXシリーズ等のマクストフカセグレンの補正レンズの配置を変えた設計になっています。メニスカスレンズを2回光軸が通ることによるロスや回折がありますが、総じて像は安定していて、木星を見た感じでは口径の割りには比較的高い分解能があるように感じました。鏡筒も短く、スカイポッド経緯台のようにコンパクトな架台にはよくマッチすると思います。

STAR BOOK-Sの実際の画面
各画面をクリックすると、実際のコントローラーの全体像が見られます。

1.電源投入時の状態

時刻と観測地の設定・有償バージョンアップのキーコード入力などのメニューがある

観測地の設定は緯度経度を手動で入力する

2.太陽を見てはいけないという警告文

3.アライメント前の初期状態

西の地平線を向いている

4.「星図モード」で目標の天体を選択する

モードの切替は下のクロスキーの横のボタンを使う

5.「導入」ボタンで目標の天体に移動する

6.視野中心のズレを補正してアライメントをする

モーターの速度は下のクロスキーを使って拡大率を変更して行う

7.次の目的の天体を選択する 8.視野のズレがある場合は補正し、アライメントを繰り返す
9.メニューからも天体を選べる 10.天体を選択すると簡単なその天体の説明が表示される。

11.M13の導入中の画面

天頂付近の天体は、視野の中心への導入がむずかしい

12.観測を終了する前にホームポジションに戻す
13.本体の電源を切ってから、コントローラーの電源を落とす 14.最終画面

 ここまでのことをまとめると、天体自動導入望遠鏡としての最低限の機能は満たしているものの、全体的にはまだまだ問題点があるように思います。特に、Meade オートスターと比較してみた場合、実用面での問題点が特に大きく出てくると思います。

 オートスターと比較した場合のSTAR BOOK-Sのメリットとしては、

●アライメントする星はどの星でもOK
→オートスターではあらかじめ限られた1〜2等星でしかアライメントできないのに対し、STAR BOOK-Sは惑星も含めてどの星でもアライメントができる。

●鏡筒が交換できる
→Meadeの天体自動導入望遠鏡は、LXD-75シリーズを除いては鏡筒が固定式であるのに対し、スカイポッド経緯台は鏡筒を自由に選択できる。

 反対に、実際使ってみてデメリットとして感じられた点は

●電池が12本も必要!
→本体とコントローラーに別々に電池が必要で、さらに電池の消耗も早い。本体には外部電源が使用できるが、コントローラーは外部電源が使用できないので、電池の予備が常に必要になる。

●バックライトが明るすぎる。
→上の実際の画面を見るとわかりますが、バックライトが明るく、星空と交互に見ていると目が明順応してしまい星が見えづらい。これはSX赤道儀のSTAR BOOKでもいちばん大きなデメリットとして感じた点。

●ボタンの位置がわかりにくい
→暗やみの中で実際使用してみると、ボタンの相対的位置がわかりにくい。ボタンがコントローラーの右側に上下についているのに、画面に表示されるナビゲーターには下部左右で表示される。SX赤道儀のSTAR BOOKが両手で操作する左右対象になっていたためと思われるが、これでは直感的に操作ができず非常に不便。

●観測地に経緯度を入れる必要がある
→観測地を地名ではなく経緯度で入れなければならないのは、実用的ではない。正確な経緯度を入れても導入精度には大きく影響しないことを考えると、近くの都市名などで選べるようにする方が使いやすい。

●星図方式は星図を見慣れている人には使いやすいが、はたして初心者には使いやすいか?。
→星図やパソコンでのシミュレーション画面を見たことがある人には使いやすいが、はじめて星を見る人にとっては、画面に星図を表示しても理解できないかもしれない。

●電源の切り忘れの可能性が高い
→本体とSTAR BOOK-Sの電源が別々のため、電源の切り忘れの可能性が高い。無操作状態が続いたときの自動的電源OFFなど、一般的に考えられる機能は実装するべき。また、電源を切るまでの操作の手順が煩雑で、すぐに終わらせることができない。電源オフとホームポジションへの回帰は自動化するべき。

 等が私が気付いた問題点です。比較をした私自身がMeade オートスターの操作に慣れているからという理由もあるとは思いますが、どうしてもマイナス点が目立ってしまう結果となってしまいました。

 これらを総合して、天体自動導入望遠鏡としての機能は満足しているものの、実用面でまだ大きな問題があると思いました。これからのメーカーの改良に期待したいと思います。

 このテスト結果は、当社が使用するデモ機としてメーカーより購入した、お客様向け出荷商品と同じ物を使用して行ったものです。この内容については、当社独自のデータによるもので、メーカーの提供したデータではありません。また、お客様が購入された同機種の性能を保証するものではありません。あらかじめご了承下さい。