ガリレオ ガリレイがはじめて宇宙に望遠鏡を向けてから約400年。その間現在まで、天体望遠鏡は様々な発明と工夫により進化していきましたが、19世紀に「写真」が発明されるまでは、たとえ新しい発見をしたとしても、人間が望遠鏡を見たものをスケッチして記録に残すしか方法がありませんでした。 | |||
◇写真の発明 | |||
1822年、フランスの発明家ニセフォル ニエプス(Joseph Nicephore Niepce 1765-1833)が、太陽光とアスファルトの一種である歴青を使って、現在の写真の原型になる「ヘリオグラフィ」(heliographie)を発明し、さらにそのニエプスとルイ ダゲール(Louis Jacques Mande Daguerre 1787-1851)によって、現在まで使われている銀化合物を用いた感光写真(銀塩写真)が発明されます。この方法では、太陽の光が降り注ぐ明るい昼間の景色の撮影でも、10〜20分程度感光させる必要がありました。 このころは、同じように銀塩写真を研究する者が競って新しい発明をしていました。イギリスのウイリアム タルボット(William Henry Fox Talbot 1800-1877)は、天王星の発見などで有名なウイリアム ハーシェルの息子ジョン ハーシェル(John Frederick William Herschel 1792-1871)らと共同で、より効率的で鮮明な像を得られるネガポジ法による写真を発明します。この研究の中で、1839年9月にジョン ハーシェルが天体望遠鏡にカメラを取り付けて撮影したのが、世界で始めての天体写真ではないかと言われています。 このネガポジ法が確立されると、より効率よく鮮明な像を得るために、加速度的に様々な工夫が施されるようになります。はじめは紙に銀化合物の液体の乳剤を塗っていたものを、透明なガラス板に塗るようになり、さらに乳剤を塗布して乾燥させた「乾板」が開発されると、保存性が向上し工場での大量生産が可能になります。像を浮かび上がらせる現像・定着の処理方法もさらに効率化が図られ、現在のモノクロ写真と同じ技術がほぼこの時期に確立されます。 |
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◇天体写真の黎明期 | |||
この乾板を使って撮影した天体写真は、現在も数多く残されています。1874年に日本で見られた金星の太陽面通過の様子は、欧米からやってきた多数の天文学者たちによって観測されていますが、フランスから日本に観測に来ていた天文学者ピエール ジャンサン(Pierre Jules Cesar Janssen 1824 - 1907)によって撮影された金星の太陽面通過の連続写真を、こちら(YouTube)で見ることができます。このジャンサンが使用した太陽望遠鏡は、円形に設置された乾板を順次ずらして連続撮影ができるもので、同形のものがオーストラリアのシドニーにあるPowerhouse museumに展示されています。 | |||
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その後、感剤の改良により写真の感度はさらに向上し、露出時間(シャッター速度)はさらに早くなって、一瞬の様子を切り取るという、現在の写真と同じスタイルに変わっていきます。天体写真等を撮るときにしか使用しなくなった長時間シャッターを開けたままにする撮影方法も、今となってはそれが特殊なことのように見られてしまいますが、このような写真技術の発展を知ると、けっして特殊なことではないことも理解できると思います。 | |||
◇宇宙を測る・・・あらたな天体写真の使命 | |||
このようにして、それまで人間が望遠鏡で見える天体を直接測定したりスケッチしていた天体の姿を、写真として残せるようになったことにより、位置や明るさなどの情報をそれまでより正確に測定できるようになりました。これにより、天体の物理的計算がより正確にできるようになり、太陽系や銀河系内の天体はもちろん、人間の目では見えないより遠方の天体を写し出すこともできるようになり、いままでわからなかった宇宙全体の様子がわかるようになったのです。さらに、感剤の改良により。人間の目では見えない赤外線やX線を使った撮影もできるようになります。カラー写真の誕生も、こうした科学技術の延長線上で実現した成果のひとつです。 こうして天体写真は、「宇宙を測る」ための重要な道具として定着していきます。そして、より遠くの宇宙をより正確に測るために、研究者たちは写真よりさらに高い精度を求めるようになります。銀塩写真では、銀化合物が光を受けて化学的反応を起こすことにより、光を像として写し出していますが、感剤に含まれている銀化合物の性質や量により、受けた光の量と化学的反応が比例しない相反則不軌(reciprocity law failure)という現象が起こります。そのため、天体の明るさを正確に測ることができません。 この問題を解決するために考え出されたもののひとつに、光電測光という方法があります。アメリカの天文学者ジョエル ステビンス(Joel Stebbins 1878-1966)は、現在の太陽電池と同じしくみである光電池を使って、宇宙からの光を測定しました。直接宇宙からの光を電気に変えることができるため、明るさ=光の強さをより正確に測ることができるようになります。その後、より効率の良い光電子倍増管などが使われるようになり、光の成分をより細かく分析できるようになりました。それにより、星の表面温度など様々な物理的性質がわかるようになります。 |
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◇CCD撮像素子の出現 | |||
このようにして進歩してきた光電測光も、光電子倍増管など大掛かりな設備が必要なため、天文台等の大望遠鏡にしか取り付けることができず、小さな天文台やアマチュア天体観測家は、引き続き銀塩写真を使って観測をしていました。そこに、あらたな観測デバイスとして登場したのがCCD撮像素子です。 | |||
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これにより、これまで小さな天文台やアマチュア観測家では難しかった分野でも、たくさんの発見がされるようになり、天文学に対する社会からの認知度も高まってきたと言えるのではないでしょうか。 | |||
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◇デジカメの普及で天体がより身近な被写体へ | |||
従来のフィルム写真の時代にも、アマチュアによる天体写真は多く撮られてきましたが、けして簡単なことではありませんでした。それは、機材が高価であることや、設置調整が難しいこともありますし、現像しなければ結果がわからないことなど、なかなか成功に結びつかなかったということも大きな理由でしょう。 しかし、CCD撮像素子やさらに安価に提供できるCMOS撮像素子が出現したことで、デジタルカメラが一般にも普及するようになり、これまで難しかった天体写真の撮影も、いまや手軽に楽しめるようになっています。特に、撮影したその場で結果がわかるようになったことは、失敗してもすぐに撮り直しができますから、大きな進歩といえるでしょう。また、これまで目で見ることができなかった遠く暗い天体も、望遠鏡の天体自動導入技術の確立により、手軽に写真に撮ることがでようになりました。 |
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◇さらなる技術革新、そして新しい発見へ | |||
ここ数年だけでも、天体の撮像技術はさらに新しいものへと改良されてきています。また、身近になった撮影機材を使って、小さな天文台やアマチュア観測家からあらたな発見が続々と報告されています。これからも、観測技術は刻々と進化していくでしょう。是非あなたも、天体写真のすばらしい世界に挑戦してみてください。きっと、あたらしい発見が待っていることでしょう。 |