2021年11月8日(月)の午後、日本で見られるものとしては2012年8月14日以来9年ぶりとなる金星食が見られます。 |
●星食とは? |
星食のお話をする前に、天文現象で言う「食」についてお話しておきましょう。文字通り、天体が「食べられる」現象のことをいいます。もちろん、誰かが星をパクパク食べてしまうわけではないので、何らかの自然現象が起きるわけです。
有名なところでは、「日食」と「月食」があります。日食は、地球からの見かけ上太陽の前に月が入り込んでくることによって、太陽が月に直接隠される現象です。太陽と月と地球上での見る場所の位置関係により、太陽全体が隠されるものを皆既日食・見かけ上太陽の中に月がすっぽり収まってしまい、リング状に太陽の光が見える金環日食・太陽の一部だけが月に隠される部分日食の3種類があります。最近日本で見られた日食は、2020年6月21日に全国で部分日食が見られました。
一方「月食」は、太陽の光によって照らされている月が、地球の影の中に入ることによって見えなくなる現象です。日食とは違って、直接月を何かの天体が隠しているわけではありません。しかし、ちょっと視点を変えると、月から見たときに、太陽が地球によって遮られている状態、つまり月での日食が起こっていると考えられるわけです。最近日本で見られた月食は今年5月26日の皆既月食がありました。
これらの「食」は、宇宙空間での天体の位置関係が相互に直線上に並ぶことによって、より遠方にある天体が隠されることを差しています。日食の場合は、太陽・月・地球の順に並んだ時に起こり、月食の場合は、太陽・地球・月の順に直線に並んだときに起こることになります。
なぜ、このように天体と天体が一直線上に並び、日食や月食が起こるのでしょうか?。その理由は月の公転が大きく関係します。月は地球のまわりを約一カ月かけて一周しています。それは地球上から見ると、天球上を少しずつ移動しているように見えることになります。ですから、その日・その時間で月の見える場所は少しずつ違っているわけです。
その天球上を移動している月が、私たちからの見かけ上その向こう側にある星の手前を通過するときに星食が起こります。今回の金星食は、金星・月・地球が一直線上に並び、見かけ上金星の手前に月が入り込んでくることにより、月が金星を隠す現象です。 |
●今回の金星食について |
今回の金星食は、11月8日(月)の午後、南東の青空の中ほどにある細い月が、金星を隠します。金星食は、日食と同様に地球の周りを周っている月によってその向こう側にある金星が隠される現象なので、地球上の場所によって見えかたや時間が変わります。日本では、後述の南限界線が通る長崎(対馬)〜福岡〜大分〜愛媛〜高知以南を除く、全国で見ることができます。
今回の金星食の各地での時刻は下の表の通りです。金星が隠され始める時刻は全国で数分程度の差しかありませんが、隠されている時間は概ね北に行くほど長くなるため、隠され終わる時間も遅くなります。
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2021年11月8日の金星食の時刻(日本時間)
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地名
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金星の全部が月から出る
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札幌
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13:43 |
14:49 |
14:50 |
仙台
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13:46 |
14:44 |
14:46 |
東京
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13:48 |
14:37 |
14:40 |
大阪
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13:46 |
14:22 |
14:25 |
広島 |
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13:47 |
14:10 |
14:14 |
福岡
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月に一部だけが隠される |
13:57 |
鹿児島
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那覇
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2021年11月8日の金星食
山口県山口市付近で見た様子のシミュレーション
月の位置の関係で、場所によって見え方が異なり、
より東(北)の地方では、月の中心に近いほうを通過していくので、
隠されている時間も長くなります。
Java scriptの関係で上の図が見られない場合はこちら
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●どこで、どうやって見える? |
今回の食は、南東の高度30度程度の空で起こりますから、月が見える場所であればどこでも観測できます。都会の住宅地などでは、南に開けたベランダなどで充分見ることができる現象です。
今回は昼間の現象なので、肉眼でその変化を見るのはちょっと難しいですが、金星は十分な明るさがあるので、昼間の空の中でも望遠鏡や双眼鏡を使えば簡単に見つかります。この時、金星は光の速さで5分(約0.6AU)とやや近いところにあり、望遠鏡で見てみると半月のような形に見えます。また、望遠鏡で倍率を上げて見てみると、三日月より金星のほうが明るく見え、昼間の青空の中で金星を見る良い機会でもあります。金星が月に隠れるときや出てくるときには、金星がゆっくりと見え隠れする様子をじっくりと見ることができます。これは、天体望遠鏡でなければ見ることができないものです。是非チャレンジしてみてください。
三日月は細いので青空の中では少し見つけにくいですが、肉眼でも見つけられる大きさがありますから、南東の空を注意深く探せば見つかるはずです。スマートフォンのセンサーと星空アプリを使えば、だいたいの方角を知ることもできますから、より容易に探せるでしょう。
天体望遠鏡を使って探す場合、ファインダーでは月や金星が確認できないかもしれません。まずはなるべく低い倍率で視野を広くして、青空の中を探してみてください。場所の見当がずれていなければ、しばらく探せば見つかるはずです。
また、昼間の月や金星を探すには、天体自動導入望遠鏡があるとさらに見つけやすくなります。昼間アライメント(SynScan)や惑星アライメント(Nexstar+)を使用すれば、月と金星を自動追尾することもできますから、連続写真を撮る場合にもとても便利です。
上記の表の潜入時刻を参考に、その30分くらい前から月を望遠鏡の視野に入れ、月の左下に見えている金星をあらかじめ見つけておきます。時間が経つと金星は少しずつ月に近づいていきます。金星そのものも月のように欠けた状態になっているので、月に隠されるときには数分かけて少しずつ月の向こう側に隠れていきます。
さらに、上記の出現の時刻になると、今度は金星が月の向こう側から出てくる現象が見られます。星がどこから出てくるかを特定するのは難しいですが、月の表面の明るさより金星のほうが明るく見えるので、出現しはじめればすぐに見つかるはずです。出現するときも、数分かけながらゆっくりと現れます。2〜5分くらいたてば、月の縁から金星が現れたのをはっきりと見ることができるはずです。
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今回の金星食の9日前の10月30日は、金星の「東方最大離角」になります。地球の内側を回る内惑星(水星や金星)は、太陽に近いところを公転しているため、地球から見て太陽の反対側になる深夜の空では、通常見ることはできません。この「最大離角」とは、地球からの見かけ上、内惑星がもっとも太陽から離れて見えるときのことを指します。地球から見て最も西側に離れる(明け方の東の空に見える)のが西方最大離角・最も東側に離れる(夕方の西の空に見える)のが東方最大離角です。
最大離角のときには金星や水星が見つけやすくなりますが、実際にはそのときの季節(地球の自転軸の傾き)によって、見つけやすいときと見つけにくいときがあります。大まかに、9月の西方最大離角と3月の東方最大離角のときは、軌道傾斜角の関係で太陽が沈んだ後の高度が高くなるので、内惑星が見やすい位置になります。特に金星が7〜8月に西方最大離角を迎える時には、太陽が昇ってくる時間も早いので、普段は見られない深夜の金星を見ることができることになります。
また金星は、東方最大離角の約1ヶ月後と西方最大離角の1ヵ月前に「最大光輝」になります。内惑星は、大まかに太陽と地球の間を通過する内合のときに地球に最も接近しますが、このときは太陽の光を受けている面をほとんど地球に向けていないため、明るさはそれほど明るくありません。一方、地球から見て太陽の向こう側を通過する外合のときは、太陽の光を受けている面をほぼ全部地球に向けていますが、距離が遠いため明るくありません。
このようなことから、内惑星は内合から最大離角までの間の短い期間が、最も明るく見える時期になります。今回の金星食は、昼間の現象ではありながらも、東方最大離角と最大光輝とも関連して、よく見える条件が整っているといえるでしょう。
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内惑星の視直径(地球からの見かけの大きさ)と
見かけの形の関係
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●九州と四国の一部で接食となる
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星食は、日食と同じように見る場所によって見え方が違うという特徴があります。今回の星食では、概ね南西に行くほど月の縁近くを通過していきますが、南限界線が通る長崎県(対馬)・山口県・福岡県・大分県・愛媛県・高知県の一部地域で「接食」として見ることができます。また、この南限界線以南(以西)の地域では、金星は月に隠されません。
接食とは、月がその向こう側にある星をかすめるように移動していく現象で、金星等の惑星の場合は、星の一部だけが月の向こう側に隠される様子をみることができます。
接食が見られる地域は、月に隠されるか隠されないかの境界線を地上に引いた「限界線」と呼ばれる線上のごく限られた地域だけです。右のGoogle Mapは、今回の金星食の南限界線を地図上に表示したものです。赤い線よりも北(東)側では金星がすべて月の向こう側に隠され、青い線より南(西)側では金星は月に隠されません。一方で、この線に挟まれた地域では、金星の一部だけが月の向こう側に隠される現象を見ることができます。
お近くにお住まいの方は、是非限界線近くに行って観察してみてください。GPSを搭載したスマートフォンなどから、現在地と限界線を確認できるGoogle mapも、こちらに用意しています。 |
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●夕焼けの中の月と金星にも注目! |
日没後1時間くらいの南西の空の様子のシミュレーション |
金星食は昼間のうちに終わってしまいますが、その月と金星が西の空に傾く夕方になると、夕焼け空の中に並んで輝いている様子を見ることができます。あたかも三日月からしずくが落ちてるかのように輝いているようすは、きっと感動的な風景になるはずです。是非、西の空が水平線近くまで開けた場所で、地上の夜景と一緒にお楽しみください。
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上のシミュレーション画像を見て気づかれた方も多いと思いますか、月と金星が同じような形をしていますね。皆さんもご存知の通り、月や金星をはじめとした太陽系の星たちは、太陽の光を反射することにより、私たちが見ることができる「星」として見えています。ですから、金星食のときの月も金星も太陽によって照らされているので、地球からの見かけ上ほぼ同じ形に見えるわけです。これらを立体的に捉えることで、私たち地球を含めた太陽系の位置関係を実感できると思います。
今回の金星食では、月までの距離は光の速さで約1.2秒(約400,000km)で、金星までの距離は光の速さで約5分(約100,000,000km)ですから、金星は月までの約250倍遠いところにあります。しかし、金星は月の直径の約3.5倍の大きさがあるので、見かけ上月は金星の約75倍の大きさに見えていることになります。
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星食をはじめとした「食」は、とてもライヴ感覚のある天文現象なので、一度見てみるととても感動するものです。当社の毎月の星空案内のコーナーでは、金星食はもちろん、星空を気軽に楽しむことができる双眼鏡や望遠鏡を用意しています。この機会に是非お求めいただき、ご自身の目で宇宙の星々が繰り広げるショーをお楽しみください。
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